「夏と冬の距離」

イベント2「家においでよ!」

 授業が始まる前、「おはよう」の挨拶をしたら、後は教師が来るまでおしゃべりするのが常識だ。
 いつもの通り、冬はロルフィーと百合絵と笑いながら話していた。
 そこにまた、いつもの顔が話し掛けてきた、葉子と恵梨子だ。
恵梨子 「おはよーっ!
     ねえねえ、今日さぁ、土曜日だし、ヒマならみんなで恵梨ちゃん家に遊びに来ない?」
 話が終わると同時に、迷いもなく冬が答えた。
冬   「悪いけどパース!
     ボクは部活があるから、試合が近くて、練習に燃えてるんだ!」
 返事を聴いた葉子と恵梨子は、ブーと口を尖らせる。
 どうやら今日の遊びの目的は、冬にあったらしい。
葉子  「あーあ、冬ちゃんが来ないと、こないだのゲームの雪辱戦ができないなぁ。
     恵梨子ちゃんと一緒に猛練習したのに…」
恵梨子 「うー…、残念だなぁ。
     ロルフィーちゃんと百合絵ちゃんは?」
ロル  「うん、OKだよ♪」
百合絵 「はい、喜んで。
     学校に来る時もロルフィーちゃんと、
     今日、みんなで遊びたいねって話してたんですよね?」
 ロルフィーと百合絵は、仲良く目を合わせて笑顔でうなずき合う。
 自ら断ったとは言え、自分もみんなと遊びたいなと感じた冬は、良い事を思い付いた。
冬   「ねえねえねえ!
     じゃあさ、ボクの家に、みんなで泊りに来ない?
     今日から親が旅行に行ってて、夜中まで遊びたい放題だよ〜ん」
 冬以外の四人は、きょとんとした表情で動きが止まる。
 ロルフィーが間の抜けた調子で「ふえ?」と声をもらした。
冬   「別にいいよな? 夏ぅ?」
 夏は冬のナナメ後ろ、男の子5・6人が集まった中から顔を出して、ニッコリと笑顔で答えた。
夏   「うん! 来てもらえると僕も嬉しいな。
     良かったら、午後からずっと、姉さんが部活をしている間も、家で遊んでてよ」
 冬の意外な提案に少し戸惑った四人だが、夏のセリフの間に頭の中が整理されたらしい。
恵梨子 「えーっ、ホントにぃ?
     恵梨ちゃん、ゼ〜ッタイに行く!」
葉子  「いーねぇ、ウフフフ、これは盛り上がるぞぉ」
ロル  「みんなと、時間を気にしないで一緒に居れるなんて、面白そう!」
百合絵 「私、お泊りに誘われるなんて初めてです。
     …本当にいいんですか?」
 みんなの笑顔がこぼれる。
 いつもとちょっとだけ違う「遊び方」に、好奇心が刺激された様だ。
冬   「じゃ、決まりだね。
     ボクも6時くらいには帰れると思うけど、それまで家で、夏と遊んでやっててよ」
 冬がそう言って、話をまとめた。
百合絵 「…これって、パジャマ・パーティー…ですよね?
     いつかやってみたいなぁって思ってたんですよ…」
恵梨子 「あ♪そうだね。
     えへへへ、恵梨ちゃん一番お気に入りの可愛いヤツ持って行こうっと」
  ロルフィーは意味が分からなかったので、キョロキョロしながら困っている。
ロル  「え?なあに、パジャマ・パーティーって?
     パジャマで何かを祝うの?」
葉子  「違うって、ロルフィー。
     …ん〜とね、パーティーって言っても、ご馳走食べたり騒いだりってんじゃ
     なくってぇ、まあ…する事はおしゃべりなんだけど…」
 何と言って説明しようか迷う葉子、説明にはなってないが、恵梨子がどんなものか
 自分の体験談を話してくれた。
恵梨子 「それがね、すっごい盛り上がるんだよぉ〜!
     好きな男の子の話とかね、秘密なのについ話しちゃったりぃ〜♪」
百合絵 「えっと、パジャマって毎日着るのに、あんまり人に見せませんよね?
     だから、仲の良い友達でも、知らなかった部分をお互いに発見するって感じで、
     何でも話せちゃう雰囲気に…なるみたいですよ」
葉子  「そうそうそーなの!
     つまり、理屈にかなっている友情の深め方なワケよ。
     それに、夜更かしってちょっとイケナイ事みたいな、そーゆーのあるじゃない?
     そんなイタズラ程度の罪悪感だけど、みんなで共有すると、なんかもう裏切れない
     って感じの固〜い友情が生まれたりするんだよね」
冬   「秘密を話したら、真っ先に裏切って誰かにしゃべっちゃいそうだけどねぇ〜
     葉子ちゃんは!」
葉子  「ナハハハ…おっしゃるとおりで…
     まあまあ、よりいっそう許し合える仲になるってコトよ。
     分かった?ロルフィー?」
 何となくどんなものかは分かったロルフィーだったが、魔界で育った価値観からか、
 まだちょっと儀式的な意味があると思っているらしい。
ロル  「む〜、でも困ったなぁ…
     あたしはネグリジェしか持ってないから、パジャマ・パーティーは無理だよ…」
 天然のボケに一瞬、時が止まった。
冬   「ぷっ…はは、ボクだっていつもTシャツで、パジャマなんか持ってないよ。
     よーするに寝間着ならいーの!」
恵梨子 「へー!ネグリジェってよく外国の映画なんかで出てくる、スケスケのアレでしょ?
     や〜ん可愛い〜。
     いーなー恵梨ちゃんも着てみたいなぁ〜」
 恵梨子のセリフに過敏に反応する百合絵。
百合絵 「!!! スケスケって!
     …あの、だって、今日は桐原くんだって居るんだから、その、…あの…」
葉子  「あはははは。
     じゃあ夏君に、誰の寝間着が一番可愛いか審査してもらっちゃおうか?」
冬   「おーい、良かったな夏ぅ!?
     ロルフィーと恵梨子ちゃんがスケスケのネグリジェ姿を見せてくれるってさ!」
ロル  「ちょ、ちょっとぉ〜何言ってるのよ!
     もう〜…嘘だからね、信じちゃ駄目だよ夏君」
恵梨子 「恵梨ちゃん、夏君だったら別にいいよ〜。
     ロルフィーちゃんも、絶対可愛いんだから一緒に見せたげようよ〜」
百合絵 「だ、駄目ぇ!
     そんなの嫌です、…って…あの、その、あ、あんまり羽目を外した事は…」
葉子  「おっとぉ?
     あれ〜♪ どーして百合絵ちゃんが怒るのかなぁ〜?」
ロル  「も〜っ!
     パジャマは何とかするから、…夏君が困ってるじゃない。
     それよりも、晩ご飯をどうするかとかを考えようよ!」
冬   「あ、食事代多めにもらってるから、みんなで材料そろえて…」
 そして話は食事の支度や集合時間等、現実的な方向に戻ったのだった。
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 罪の無い(いや、かなりあった)会話の間、夏とその周りに居た数人の男子は、
 モヤモヤと彼女達の寝間着姿を想像していた。
 葉子も冬も、結構男子の間で人気の女の子なのだ、百合絵も最近明るくなって
 その魅力を見直されていた。
 特にロルフィーと恵梨子は、間違いなく1年男子のあこがれBEST3に入る人気者だ。
 夏はそんな彼女達と一晩とはいえ、一つ屋根の下で過ごすのだ。 
 さらに言うならば、誰も見た事のない寝間着姿で、好きな男の子がどーしたこーしたと
 思春期の男が最も気になるシチュエーションを展開する。
 赤くなってうつむいている夏に、ある者は「うらやましいな、コイツ!」
 と半分本気でねたみのツッコミエルボーを。
 ある者は完全に本気で「夏君、…僕、デジタルカメラ持ってるから…お願い!」
 と隠し撮りを頼んで来た。(もちろん断った)
 冬と二人きりの夜を、どこか不安に思っていた夏。
 不安を吹き飛ばしてくれると思ったにぎやかなガールフレンド達は、
 無軌道にして予測不可能なパワーアップした新たな不安を、夏の心に落とすのだった。


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