吹けば飛ぶよな女だが 第2話

「ありゃあ、どうやら家出娘かなんかだね。おい、アフロ、来な!」
楓はアフロを従え、先程までとは打って変わった笑顔を浮かべながら緑の髪をした少女の元へと歩み寄っていった。その笑顔が偽りのものである事に気が付かないのは恐らくこの港ではこの緑の髪の少女だけだっただろう。
「おや、あんた荷物重たそうだねぇ。こっちに親戚でもあるのかい?」
楓が話し掛ける。少女は楓の言葉に一瞬嬉しそうな表情を覗かせたが、その視界にアフロの奇抜なヘアスタイルが入るや、思わず身をかたくした。
「あ、こいつかい?変な髪型だろう?でも根はイイ奴なんだよ。床屋に行く金が無いもんだから、へんてこな美容師のカットモデルのバイトに行ったらこんなになって帰って来たんだ。おかしいだろ?」
楓が微笑みながら語を継いだ。アフロが横で苦笑いをしている。
「あ、そうだったんですか?私てっきり…。」
緑の髪の少女がようやく口を開く。楓はここぞとばかりに優しい言葉を並べ立てた。
「あんた名前は?あたしは楓。月代楓っていうんだ。こっちのはアフロ奈美恵。みんなにはアフロって呼ばれてるんだ。この港ははじめてかい?」
「ロルフィーです。ロルフィー・リリアン‥。はじめまして。」
鈴を鳴らしたような美しい声と、育ちのよさそうな物腰に楓の心は動揺していた。楓が言葉をためらっている間にロルフィーと名乗った少女はなおも話しはじめた。
「こちらには、お仕事を探しにやって来ました。くにのみんなに楽をさせたくて‥。」
「そ、そうかい。で、なんか仕事のアテはあるのかい?なければアタシが相談に乗ってやるよ。いや、アタシもあんたみたいに田舎から出て来た身なんでね、放っておけなくてさ‥。こっちには悪い奴も多いからね。」
ようやく楓はさっきまでのペースを取り戻し嘘八丁を並べ出した。
「本当ですか?ありがとうございます。でも今日の宿もまだ…」
「心配すんなって、アタシらにまかせときな。な、アフロ」
アフロは自分に向けられた楓の含意のあるきつい視線にたじろぎながらも、二度三度と首を縦に振った。
 ロルフィーは少し戸惑いながらも、楓達とともに歩きだした。港で何やら作業をしていた船員達が手を止め彼女らに目をやっている。アフロがそれに気付き睨みをきかせると船員はみな同様にうつむき作業の手を再開した。
 ロルフィー達は盛り場の奥へ奥へと入っていく。ロルフィーが異変に気付き振り返ろうにもそのすぐ後ろにはアフロが控えている。楓の姿を見るや道をあける歩行者達の姿にロルフィーの不安が高まっていく。と、楓の足が薄暗い路地の前で止まった。ネオンの消えた怪し気な店がひしめきあっているその前で振り返り口を開いた。
「ロルフィー、ちょっとここで待ってるんだよ。話しを付けてきてやるから。オイ、アフロ。この子を頼んだよ。」
そういうとその路地の中でもひときわ目を引く看板を掲げた店に消えていった。その看板にはカタカナで「ジュテーム」と書かれてあった。

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