「夏と冬の距離」イベント1「留守番」土曜日の朝。 夏と冬は旅行に行く両親を見送りに、駅に来ていた。 夏 「行ってらっしゃい」 冬 「お土産は、美味しいモノにしてよ! ヘンなキーホルダーとか買ってこないでよね」 二人は笑顔で話す、不安な表情は少しも見せない。 一方、両親は心配そうな顔で、食事に戸締まりにしつこく念を押している。 ため息を一つ、眉をしかめて冬が怒った。 冬 「あのねえ、お母さん! ボクたち、もう中学生だよ? たかが二泊三日、旅行の間の留守番くらい、出来ないと思う?」 まあまあと冬を落ち着かせながら、夏も付け加える。 夏 「ほら、宿泊先の電話番号でしょ? それに叔父さんの家と会社の連絡先、担任の沢科先生の自宅も。 ちゃんとメモを持ち歩いているんだから、心配しないで」 冬 「まったく、いつまでも子供扱いしてぇ〜」 こんな時は、夏の様に素直な子供として対応した方が、親として安心できるものだ。 「子供じゃない」を連発する冬に不安は残るが、夏が一緒ならばと、 やっと両親はホームへの階段を上って行った。 冬 「ふぅ、や〜っと行ったよ。 せっかくの旅行なんだから、ボクたちの事なんか忘れとけばいいのに」 夏 「父さんがまとまった休みを取れるなんて、珍しいもんね」 冬 「おまえらも学校を休んで、四人で行こう!…なんて、 まったく親ってヤツは、解ってないよ。 中学生にもなって家族旅行なんて、面倒クサいだけなのにさ」 夏 「…ま、僕も、土曜日とはいえ学校を休みたくなかったからね」 冬のセリフに「自分だって、親の気持ちなんて解ってないくせに」と、心でツッコミを入れておき、 夏は無難な答えを返しておいた。 冬 「んじゃ、少し早いけど行くか」 夏 「うん」 二人は学校に向かって歩き出した。 この時、夏はかすかな不安を感じていた。 冬は何も考えていなかった。 今日と明日、「子供じゃない」思春期の姉弟は、二晩も二人きりで過ごすのだ。 冬 「お母さんが居ないからって泣くなよぉ〜夏? ホントお前は、ボクが付いていないと、何にも出来ないからなぁ」 意地悪な顔で、だけど楽しそうに笑う冬。 夏 「そんな訳、ないでしょ!」 夏は、怒った様子で少し視線をそらす。 ドキッとするほどまぶしく感じた姉の笑顔。 照れと、小さな罪悪感を誤魔化すために…。 イベント2「家においでよ!」を読む |